涙の雨と君の傘

ガチャガチャと、玄関の鍵をあけながら笹原が言う。


「いいよ、まだ全然明るいし大丈夫。笹原もこれからまたバイトあるんでしょ?」

「でも、こんなに食べ物持ってきてもらったし、雨降ってるし……」

「いいって、ほんと。それより食べてからバイト行きなね」


いつかは風邪を引いたけど、いまは夏だし、暑いし、濡れてもちょっと涼しくなる程度だろう。


それに……いまは雨が、嫌いじゃない。



「待って。いま傘貸す」

「いらない。じゃあまたね!」

「名瀬!」


慌てて私を止めようとする笹原に笑って、アパートの階段を軽やかに駆けおりた。

パラパラと落ちてくる雫を浴びながら、黒く染まったアスファルトを蹴る。


いつかの雨よりずっと優しく、くすぐったさすら感じながら、私は笹原のアパートをあとにした。





夜、笹原から『美味しかった。ありがとう』とメッセージが来て、なぜだかにやけてしまった私。


笹原が夢中で食べてる姿を見てみたかったなと、こっそり思った。