涙の雨と君の傘

「あがってく?」


鈍く光るシルバーの鍵を掲げて笹原が言う。


笹原のアパートは知ってたけど、部屋にまであがったことはない。

笹原がどんな部屋でひとりの時を過ごしているのか、気にならないわけではないけど、私はゆるく首を横に振った。


「やめとく。様子見にきただけだし」

「でも、随分待ったんじゃないの? 暑かっただろうし、何もないけどお茶くらい出すよ」

「いいのいいの。それよりさ、ちゃんと食べなよね。また何か持ってくるから、空いてる時連絡してよ。リクエストしてくれたら考えるし」

「……うん。ありがとう」



一応、彼氏持ちだから。


いつもそうやって、ムダな一線をひく私を、笹原はどう思っているだろう。


アイツは一線どころかボーダーレスで好き放題なのに、バカだなって自分でも思う。


でも、私はバカでいい。

バカでもそこはちゃんとしてたい。

アイツみたいにはなりたくない。



恋人をきちんと特別扱いできる人でありたいのだ。



「あ。……雨だ」


ポツポツと、小雨が振りだした。

晴れてるのに雨なんて、おかしな天気。


「名瀬。送ってく」