涙の雨と君の傘

現れたのは、ひょろりと縦に伸びた影。

白いシャツに淡色のデニムという恰好をした笹原だった。


至ってシンプルな服装なのに、笹原が着てると物凄くオシャレに見えるから不思議だ。


ゆらゆらと揺れるように歩いてきた笹原が、私に気づいて目を丸くした。


「お帰りー」

「……名瀬」

「あと久しぶり。ごめんね、いきなり来て。連絡しても返事なかったから、倒れてるんじゃないかと思って」


アイツへの怒りとか、悔しさとか、そういう黒い感情に蓋をして立ち上がる。


倒れてはいなかったみたいだけど、笹原の顔色は悪く見えた。

やっぱり体調を崩してるんだろうか。


「あー……。こっちこそごめん。忙しすぎて、ちょっと余裕なかった」

「なんかあったの?」

「いや。家庭教師のバイト増やして、引っ越しのバイト入れただけ」

「はあ!? そんなにやってんの!? それじゃ休みなしとか」

「うん。バイトして、帰って寝る生活」


夏休みなのに休みがないってどういうこと。


そういえば、少し痩せたんじゃないかな。

元から細いのに、更にひょろひょろになってる。


「ちゃんと食べてる?」

「寝てる」


食べてないわけね。

良かった、色々おかず持ってきて。


「はい、これ」

「なに?」

「おかず。煮ものとか、カレーとか、色々。冷凍したりして食べて」

「……やばい。名瀬が神様に見える」

「私は痩せっぽちの野良犬に餌を与えてる気分だよ」


珍しく、笹原が嬉しそうに瞳をキラキラさせているのが見れて、満足だ。

笹原のおかげで、黒い感情もちょっとだけ昇華させられた気がする。