涙の雨と君の傘


夏休みの中盤、笹原に連絡してみた。

でも、返事がない。


がっかりしかけたけど、ちょっと待てよ。


笹原はいつも、あっさりしてるけど返事は必ずくれる奴だ。

何かあったんだろうか。


「直接行ってみようかな……」


そうと決まれば、すぐ動こう。


私は珍しく台所に立って、少ないレパートリーの中からいくつか選んで料理した。

それと昨日の残りのおかずをタッパーに詰めて、家を出たのは3時過ぎ。


バイトかもしれないけど、家庭教師のバイトも厨房のバイトも夕方か夜だから、この時間ならまだアパートにいるはずだ。


と、思ったのだけれど。


インターホンを押しても、笹原は出てこなかった。


ちょっと古い、小さなアパートの2階。

じりじりと夏の太陽に焼かれ、熱を持った玄関のドアは、固く閉ざされたまま。


「出かけてんのかなぁ」


おかずが色々入った袋を掲げる。

一応保冷剤を入れてきたし、しばらくは大丈夫。


少し待ってみよう。

そう決めて、ドアの前に座り込んだ。


日影がないのがつらい。

日焼け止めは塗ってきたけど、これは焼けるだろうな。



それから1時間、笹原を待ってみた。

電話をかけてみないけど、やっぱり応答はなくて。


相変わらず太陽がきついし、おかずも悪くなっちゃいそうだから、帰ろうかなと思った時。

クラスの友だちからメッセージが届いた。



「……ふーん」



読んだことを後悔した。

一気に最低な気分にさせられた。


内容は、昨日プールでアイツを見たっていうリーク。


しかも女連れ。

しかもふたりきり。


しかも相手は前にアイツが浮気した女。



最悪だ。


何が最悪かって、私は昨日アイツのこと誘って、断られてる。


唇を強く噛んでいると、外階段をカンカンと鳴らし、誰かがあがってきた。