涙の雨と君の傘

ちょっと前に、アイツが浮気した相手だった。

手を繋いで歩いてたのを、私の友だちが見てたのだ。


どうしてそんな相手とまた一緒にいるの?

いくらただの友だちだって言っても、私が嫌な気持ちになることくらいわからないの?


アイツの表情は見えないけれど、相手の女子は嬉しそうに、頬を染めて笑っていた。

アイツに気があるのは、傍から見ても明らかで。


「……ばかみたい」


私はアイツに声をかけることもできず、引き返した。

教室には戻らずに、階段を上がる。


ひと気のない階段の踊り場で、手にした包みをそっと広げた。


アイツにこのクッキーはもったいない。


そもそもこれ、私が作ったやつじゃないし。

笹原が作ったやつだし。


笹原の優しさが詰まったクッキーだし。


一枚つまんで、口に運ぶ。

ほろりと崩れる四角いクッキー。


「……あまっ」


予想外に甘くて、びっくりした。

その途端に一粒零れた涙。


「笹原、砂糖入れすぎ……」


そういえば、笹原って甘党だっけ。

あんなコーヒーはブラックです、みたいな顔してるくせに。


とことん笹原は、意外性でできている。


クッキーは、私がひとりで全部食べた。

でもそれは笹原には秘密にして、ちゃんとアイツにあげられたよ、ありがとうって、言おうと思った。