涙の雨と君の傘

「はい、これ」


私の頬から手を放して、笹原が差し出したのはクッキーの包み。

私のボロボロになったやつじゃなくて、きれいなままの、笹原のクッキーだった。



「あげる」

「……え?」

「どーぞ」


私の手にそのきれいな包みを置いて、

代わりにボロボロのクッキーをつまみ上げる大きな手。


「だからこっちは、俺がもらっとく」

「ま、待って。それ、踏まれたやつだし」

「直接踏まれたわけじゃないから、食えるでしょ」

「でも……」

「いいから、彼氏んとこ行ってきなよ。昼休み終わるよ」


何で……。


何でこんなこと、してくれるの?


笹原、いつも呆れてたじゃん。

いつまでも、浮気彼氏に見切りをつけられなくて、嫌いになれないって言いながら愚痴を吐く私に、呆れてたじゃん。


なのに、どうして。


「名瀬みたく上手くはできなかったし、ハート型もなくて悪いけど」

「……ううん。ありがとう、笹原」

「うん。行ってらっしゃい」


笹原に見送られて、廊下を急ぐ。

今度はぶつかって落としたりしないよう、大事に腕に抱えて。


アイツの教室をそっとのぞきこむ。

でもアイツの姿はなくて、共通の友だちに、トイレに行ってると教えてもらって、また廊下を急いだ。


見つけた。

見慣れたアイツの背中。


けどアイツがいたのはトイレじゃなくて、別のクラスの前で。

髪の長い、女子と一緒だった。