涙の雨と君の傘

「昼休み終わっちゃうし、行ってくる!」

「急ぐと危ないよ」


大丈夫、と言おうとした瞬間。

廊下を走ってきた男子とぶつかってしまった。


「あっ」


表紙にクッキーの包みが手からこぼれる。


手を伸ばしたけど間に合わず、それは廊下の固い床に落ちたうえ、

駆け抜ける男子の上履きに、無残にも踏みつぶされた。


慌てて包みを拾い上げたけど、無事に形を残したクッキーは、一枚もなかった。


「だから危ないって言ったのに」


笹原が近づいてきて、そんなことを言う。


うん。言ってたね。

わかってるけど、追い打ちかけなくてもいいじゃん。


悔しくて涙が出そうになったけど、唇をきつく噛んで耐えた。

笹原は何も悪くない。


「ふ。あーあ。割れちゃった」

「……粉々だね」

「せっかく上手くできたのになー。アイツに自慢してやろうと思ったのに、残念。まあ味は変わんないし、自分で食べよ。あはは」

「名瀬」


突然、むにっと頬をつままれた。

痛くないけど、急すぎてびっくりする。


「ひゃに」

「笑わなくていいよ。痛々しいから」


痛々しいってなに。


私、ちゃんと笑ってんじゃん。

ここは笹原も笑うとこでしょ。


むしろ笑ってくんないと、虚しいじゃないか。