涙の雨と君の傘


夏休み前のある日、家庭科の調理実習があった。


作ったのはクッキー。

お菓子作りなんて滅多にしないから不安だったけど、味見してみたらまあまあ美味しかった。


味はまあまあだったけど、見た目は完璧。

プレーンとココアで、マーブル模様にしたハート型のクッキーは、お店で売ってるやつみたいに綺麗にできた。


なので、アイツにあげようと思った。

私は料理が下手だって、いつもバカにしてくるアイツに。


この間見てしまったのだ。

他のクラスで調理実習があった日、そのクラスの女子にクッキーをもらっていたアイツを。


アイツはへらへら笑って、嬉しそうに受け取っていた。



何でそういうものを受け取るのって責めた。

そしたら、受け取らないのもかわいそうだし、何でお前にそんなこと言われなきゃいけないんだって、逆に責められた。


私には、他の女が作ったお菓子を受け取らないでって言う権利さえないらしい。



「でも、クッキーはあげるわけだ」


包みを持って教室を出ようとした私に、笹原がちょっと呆れたように言った。

事情を知っている笹原に言われると、いたたまれなくなる。


「別に、そういうんじゃないし。上手くできたから、自慢してやろうと思っただけだもん」

「はいはい」


そういう笹原も女子からクッキーを渡されてたけど、断っていた。

笹原の彼女になる子は、きっと幸せだろう。