涙の雨と君の傘

「名瀬はバカだよね」

「ちょっと。ケンカ売ってんの?」

「バカだけど、健気で良い彼女だと思う」


ぐぅっと、喉から変な音が出た。


笹原の笑顔だけでも破壊力があるのに、そんな風に言われたら。

私じゃなくたって照れるに決まってる。



「良い彼女なら浮気なんてされないと思う」

「それは名瀬に問題があるんじゃないよ」

「わかってるけど……はあ。なんで男って浮気するんだろ」


笹原と仲良くなってもうすぐ1ヶ月。

久しぶりにアイツのことを愚痴った。


「女でも浮気するでしょ」

「そうかもしれないけどさぁ」

「別れればいいのに」

「それができないから困ってるんだよ。いっそアイツがクズみたいなひどいことしてくれたら嫌いになれるのに」

「充分クズみたいなひどいことしてると思うけどね」


そうか。

浮気はクズみたいなひどいことなのか。


なんかもう、浮気され過ぎて感覚がマヒしてきている自分がいる。


「別に嫌いになる必要はないと思う」

「それ、前も笹原言ってたよね。どういう意味なの?」

「さあね」

「また教えてくんないの? ケチ」


嫌いにならずに別れる方法なんて、あるんだろうか。

本当は笹原も知らないのかもしれない。


きっと私とアイツが別れる時は、私がフられる時なんだろう。


それって惨めだなと、

遠くはないだろう未来を思ってため息をついた。