涙の雨と君の傘

それから私は、よく笹原と喋るようになった。

教室で普通に言葉を交わす私たちに、主に女子が驚き、どういうことかと問い詰められたけれど、

ただ友人として仲良くなっただけと答えた。


だって、本当にそれだけだし。


言葉を交わすクラスメイト。

それ以上でも以下でもない。



無口だと思っていた笹原だけど、意外と普通だった。

普通に喋る。


チャンスとばかりに女子たちが笹原に話しかけていたけれど、見事に全員撃沈。

恋に破れた屍が増えただけだった。


笹原が喋る女子は私だけ。


ただのクラスメイト。

それ以上でも以下でもないクラスメイト。


なのにちょっとだけ、優越感みたいなものは感じていた。


笹原には絶対そんなこと、言わないけど。



「笹原、今日もバイト?」

「うん」

「今日はどっち?」

「家庭教師の方」

「あー、反抗期の男の子のやつね。がんばれ」

「気持ちがこもってない……」


廊下に出ようとしていた笹原がじと目で見てくる。


「こもってるこもってる。ほら、行ってらっしゃい」


パンと強く、広い背中を叩いてやる。

気合を入れてあげたつもりだけど、笹原は痛いと文句を言いながら帰っていった。


笹原の私生活は謎に包まれていた。

実は御曹司だとか、不良チームのリーダーだとか、ホストをやっているとか、色々な噂があるのだ。