涙の雨と君の傘

笹原はそんな私を見て、もぞもぞ動いたと思ったら、すっと何かを差し出してきた。

それは、緑のチェック柄のハンカチ。


「なに?」

「泣きそうな顔してるから」



笑ってるのに?


笹原は変なこと言う。



「大丈夫。あ、そうだ。昨日のハンカチ、返すの忘れてた」

「いらないから、あげる」

「でも」

「名瀬もいらないなら、捨てていいから」

「じゃあ……もらっとく。ありがと」


なんとなく、大切にとっておこうと思った。

もったいないから、というわけじゃなく……きっと、捨てられない気がして。


理由は私にも、よくわからないけれど。



「風邪ひいた?」

「え。あ、うん。まあ自業自得だよね」

「声が変」


変て。

確かに喉痛いし、ガラガラしてるけど。


喉をさすっていると、その手を笹原に取られた。

その冷たさと行動にびっくりしてると、手のひらにコロンとひとつ、セロハンに包まれた小さなものが乗せられた。


「あげる」

「……いいの?」

「せっかくのデートなのに、その声じゃかわいそうだから」



じゃあね。


愛想のない顔でそう言うと、笹原はさっさと帰っていった。

優しい香りを、土臭い玄関に残して。



笹原がくれたセロハンの包みには、『ビタミンのど飴』と書かれていた。