「霧雨って綺麗だよね」

男の子は言いながら、手を伸ばし窓を開けた。

開いた窓から流れこむ湿った夜の空気に、一瞬背筋がぞくりとする。
湿った空気と一緒に入り込んだ静かな雨音が、薄暗い廊下に優しく響く。

「雨はキライ」

ぼそり、と言った私に男の子は小さく笑った。

「ぼくは好きだよ。霧雨って気持ちいい」

そう言いながら窓から身を乗り出して、真夜中の空を仰ぎ見る。
細かい銀の水滴を気持ちよさそうに受け止める仕草が、無邪気な野良猫のようだった。

「あ、雨だ」

男の子は急に暗い病院の前庭を見下ろし、嬉しそうに笑った。

……何をいまさら。
さっきから雨は降ってるのに。


この子、やっぱり変だ。



「ほら、あそこ。雨だよ」

不審に思いながらも指差す先を見ると、前庭の雨に濡れた紫陽花の影に、ふたつの光る瞳があった。