「あかりちゃん、ぼくはきみが好きだよ」

空を覆っていた黒い雲が、穏やかな風にゆっくりと流されていく。

「ユウ、私も……」

そう言おうとした私の口元に、ユウはそっと手のひらをあてて言葉を遮った。

「返事はいらない。この想いが叶わないことは、わかってるから」

唇に触れたユウの手のひらはまるで冷たい霧のようで、その悲しいほどの儚さに、また、涙が零れた。

「ぼくはずっと病弱で運動が出来なかったから、あの窓から見下ろすグラウンドの風景が大好きだったんだ。ボールを蹴ったり、走ったり、みんな楽しそうに運動するのを見てるのがね」

窓の向こうで、厚い雲の切れ間から茜色の太陽の光が柔らかく差し込んでくる。

「その中で誰よりも気持ちよさそうに走る女の子がいてね、ぼくは一目でその子に恋をした」

沈む直前の太陽の光は、今まさに燃え尽きようとする炎のようにあまりにも綺麗で、痛いくらいに胸をしめつける。

「だから、昏睡状態に陥っていく意識の中で神様に祈ったんだ。死ぬ前に一度でいいからはじめて好きになった女の子にこの気持ちを伝えたいって」