「死ぬのは怖くなかった。思い残す未練もなかった。でも、奇跡を信じろって励まされて、もし奇跡がぼくにも起きるなら、ひとつだけ願いを叶えたいと思ったんだ」

ユウが真っ直ぐに私をみつめた。
いつもは猫みたいに柔らかな表情のユウが、真剣な顔になる。

その視線が熱を帯びる。

「最後にすこしだけでいいからきみと話がしてみたいと思ったんだ。きっと、神様が死ぬ前に一瞬だけ、奇跡を起こしてくれたんだね」

その言葉に胸が詰まった。
私は涙をこらえることすらできずに、ただ首を横に振る。

「……ユウ、最後だなんて言わないでよ」

なんとか絞り出した声は、情けないくらいかすれて弱々しかった。
まるで駄々をこねる子供のような私に、ユウは、ゆっくりと微笑んだ。

「ユウ、死んじゃうの?」

「仕方ないよ、人間はいつかは死ぬんだから」

「この体も、目の前のユウもいなくなっちゃうの?」

「たぶんね。体が死ねば、心も死ぬよ」

「そんなの、イヤだよ……」



この目の前のユウの体が、心臓が止まって、冷たく、硬くなって、焼かれてしまうなんて……。