「ぼくは病気がちでね、ずっと入院してたんだ。いつもここから外を見ていた」

ユウは雨に沈む世界を見下ろしながら、小さくつぶやいた。


激しい雨の音で鼓膜はやぶれそうなのに、ユウの小さなつぶやきはその轟音に掻き消されることなく、真っ直ぐに私に届く。
まるで直接脳に響いているみたいに。


その時───

「あら! あかりちゃん。こんな所でひとりでなにしてるの?」

背後から急にかけられた声に、びくっとして振り返ると

「そろそろ自分の病室に戻らなきゃだめよ?」

忙しそうに廊下を歩きながら、私に向かって話しかける顔見知りの看護師さん。


───今『ひとりでなにしてるの?』って、言った。

隣にいるユウに視線をとめることなく、私だけに向かって話しかけた。
まるで、ユウのことが見えていないみたいに……。

ゆっくりとユウの顔を見ると、ユウは寂しそうに笑って首を傾げてみせた。

「あかりちゃん。会いたい? ……本当のぼくに」