「そんなの、嘘だよ。奇跡なんて簡単に起きるはず、ないよ」
この世界がそんな都合よく出来ているはずがないじゃない。
「本当だよ。きみとこうやって話していることだって、ぼくにとっては奇跡なんだから」
くさすぎる口説き文句みたいなセリフを、真面目な顔で言うユウに
「からかってるの?」
すこし、腹が立った。
「からかってなんかない。本気だよ」
こんな突拍子のない話を真顔で続けるユウに、私は困惑してため息をついた。
「ぼくを頭のおかしいやつだと思ってる?」
……思ってる、かなり。
だって、怪しすぎる。
「あなたは、一体誰なの?」
私の問いかけに、ユウは静かに微笑んだ。
「ぼくはただの入院患者だよ」
なぜだろう。
窓を叩く雨音も、自分の声も、冷たい夜の廊下に反響してぼやけて聞こえているのに。
ユウの声だけは、響くことなく澄んだまま私の耳に届く。
そのことに気が付いて、少し、背筋が冷たくなった。


