その後は、まるでスローモーション。
え、なんて振り返ろうと思ったけどそう早くは反応出来なくて。
耳に届く、荒い呼吸。
真横にいるボタンを押したその人から香る、柔軟剤の香りに、まさかなんて思いながら。
いや、でも、そんな都合のいい事あるわけないよなぁなんて思いながら。
ボタンに伸ばす指は止まらなくて。
骨ばったその人の、人差し指に。
私の人差し指が、重なった。
遅れて、ピッと電子音が鳴る。
───人生で、一番長く感じた1秒間だったと思う。
電子音で、スローモーションみたいに感じていた感覚が元に戻った。
私の顔も、遅れてその人の方にバッと向く。
──15センチほどの近さに、
心臓が震えた。
柔らかそうな、黒い髪。
視界に捉えたその人は、ぶつかったさっきの男の子でも、それ以外の人でもなくて。


