でも。
見つめて、1秒。
なんだいないかぁ、なんて顔をフイと前へ向けた。
がっかり。
したような。
してないような。
曖昧な心の中。
自分のわからない心の中を探るように、ぼうっと足元を見つめて歩いていれば。
肩に衝撃が走って「わ、」声を漏らしてフラついた。
けれど、ぶつかったその人の柔らかそうな黒髪が目の端に映って。
────ドキリ。
無意識に、期待。
そして素早く、下に向いていた目線を上に滑らせたけれど。
ぶつかったその人を視界に捉える少し前。
聞こえた、「すんません!」と言う声に、“彼”じゃないとわかった。
無意識に、急いで動かしていた瞳のスピードをゆるめる。
また、胸に、曖昧な気持ちが広がった。
がっかり。
したような。
してないような。
ゆるめたスピードで、ぶつかったその人を視界にとらえる。
「ぜんぜん!こちらこそ、ごめんなさい」
そしてそんな気持ちを隠すように、手を顔の横でうろうろと動かして、へらりと笑ってみせた。
安心したように笑顔を返してくれたその人から目線をそらし、再度歩き出す。