いつもは、こんな時間に電話なんてしないけど。
今、どうしても声が聴きたくてスマホを手に取った。
数回のコール音の後、
『もしもし』
いつもより気怠い声がした。
「ごめんなさい、七倉さん。もしかして寝てました?」
『謝らないで。寝起き最初に聞く声が雛子ちゃんだなんて、俺にとってはこれ以上ないくらい最高の幕開けだから』
いつもより掠れた声で、ウットリするような甘い言葉を口にする七倉さにんに、一瞬で、さっきまでの尖った感情が消える。
「安心しました」
『どうしたの?』
「今、どうしようもなくもやもやして、自分が嫌になるくらい気分が落ち込んでいたんですけど。七倉さんの言葉を聞いた瞬間、世界一幸せな気持ちになれました」


