ヤジを飛ばされれば飛ばされるほど、好戦的に前を見る晋平さんの眼差しは、アングラなヒップホップ界で神と呼ばれていた頃と何も変わらない。



相手のdisを真正面から受け止めて、完膚なきまでに叩き潰す。



その姿は、さながら鬼人。



バトルが始まって、物の数秒で黙り込む観客。勝敗は誰の目にも明らかだった。



結果は晋平さんの圧勝。けど誰も晋平さんの勝利を称えない。



俺は勝っても誰も近づかない、孤高の王者の元に向かった。



「おめでどうございます」



「当然だ」



バトルを離れて5年は経つだろう晋平さんは、疲れを微塵も感じさせない好戦的な目で俺を見る。



「ハルもやるか?」



「いや、遠慮します」



「なんだ?ビビってんのか?」



「そりゃ、ビビりますよ。だって晋平さんですから」



肩をすくめてみせると、



「相変わらず、素直だな」



けらけらと笑いながら、俺の肩を掴んで奥の席へと連れて行った。