「桜は?」

「え……?」

「桜は心配してくれないの?」

じっと見下ろされて言葉が一瞬詰まる。

そんな私を見て勘違いしたのか悲しそうな顔になった海翔に私は手に持っていたマフラーを押しつけた。

「心配するに決まってるでしょ!? はい、マフラー貸してあげるから」

私はクラスの女子の中でも背が低いから背の高い海翔の首もとには届きにくい。

自分でしてくれると思っていたら海翔は屈んで目を細めた。

「桜が巻いて」

「えっ」

「じゃなきゃやらない」

またムスッと今度はすねたような海翔に何だか体の力が抜ける。

休みの日に見た海翔でも今までの海翔でもなくて、今の彼は小さな子供みたいだった。

「しょうがないなあ……はい」

「――ありがと」

苦しくならないように巻いてあげると体を戻した海翔が笑う。

その笑顔は今までの海翔でどれが本当の海翔なのか分からなくなる。

言葉が続かなくなって何となく足元を見ていたら手を強くつかまれた。

「少しつき合って。行きたいところがあるから」

「かい――」

どうしたらいいか分からなくて手をふりほどこうとした。

だけど海翔がつかむ力は強くて手を離せない。

「離して」そう言うはずだったのに見上げた先にある海翔の横顔が真剣そうで。

結局それ以上何も言えないまま海翔に手をひかれて歩いた。