優雅でスピードのあるのびのびとした蒼井くんの泳ぎに比べて、健くんは力強くてパワフルだよね。それでいて速さもあるし本当にすごいな。

しばらく2人の泳ぎを眺めているとあっという間に小一時間は過ぎてしまい、2人はほぼ同時にプールから上がって休憩し始めた。





「あー…腹減った」

「水野のおにぎりがあればな」


ジュースを飲みながらぼそぼそと聞こえる2人の会話に、私は口に含んでいたミネラルウォーターが出そうになった。





「あれ自分で作ってるんだろ?凄いよな」

「たいしたことないよ!おばあちゃんに教わりながらやってるし」


蒼井くんに褒められて嬉しいのに、可愛らしく対応出来ないよ。こういう時なんて言ったら正解なの?





「水野の所もじーちゃんばーちゃんと同居なのか。俺もだけど」


健くんも「俺ん所も」と蒼井くん後に続けて言う。




「そうだよ。ずっとお母さんと2人で東京暮らしだったんだけど、色々あってこっちに引越して来たんだ」

「水野は元々都会の人なんだよな」

「つい最近までだけどね。お母さんが若い頃グレて家出して私がお腹にいる状態のまま東京に上京したらしいけど、歳をとるにつれてやっぱり地元が恋しくなったんだって」


お母さんの昔の写真見たことあるけど、なかなかの悪さ加減だったしな…

おじいちゃんおばあちゃん苦労しただろうに。





「アハハ。かーちゃん面白いな」

「今は隣町の老人ホームで真面目に働いてるよ。真面目が一番だっていつも呪文みたいに言ってる」

「ハハハ」


私の話で蒼井くんと健くんが笑ってくれてる。こんなこと陸以外で今まで無かった。

東京もとてもいい所だけど…私にはこっちの方が合ってるのかも。ここが大好きになりつつあるよ。





「じゃあ水野は一人っ子か?」

「うん!2人は?」

「俺は上に姉と下に2人弟がいる」

「へ~4人兄弟!?」


健くんの家って結構大家族だったのか。でも健くんて長男ぽいかも。




「蒼井くんは?」


そういえば…聞いたことなかったな。

祖父母と同居してるのは知ってるけど…





「俺は…兄貴が1人」

「そうなんだ…」


蒼井くんの表情が一瞬曇った気がしたけど、私はその時あえて気にしなかった。

この時健くんが話題を変えたことや、その後すぐにまた泳ぎ始めたこともいま思えば理解出来た。

だけどこの時はまだ分からなかった…