16時ちょうど。私はこの町に引っ越して来てから、毎日のようにスポーツクラブの室内プールに来ている。


水野 美海(みずの うみ)。この春東京から母の故郷である田舎に引っ越して来て、転校先の高校に入学したばかりの1年生。

シングルマザーの母が突然「疲れた」と言い出したのはちょうど一年前のこと。私を16歳の若さで産んだ母は当時ほとんど家出状態で東京に上京し、顔も覚えてない私の父である男とすぐ離婚して今まで女手一つで私を育ててくれた。

そんな母が田舎に帰りたいと話すと、快く了承してくれた私の祖父母は田舎で漁師をしていて、私達親子は母の実家に住むことになったのだ。




チャポ…


プールサイドに座って足だけ水の中に入ると、足をバタバタさせながら考えるのは東京にいた時の友達の事。

元々友達をつくるのは苦手な方で今まで親友と呼べる子はいなかった。クラスの女子達とはそれぞれとまんべんなく仲良くして、敵を作らないようにしながら毎日過ごす。

おかげで田舎に引っ越すことになっても、離れ離れになって寂しく思う友人はいなかったからか、自分自身転校もすんなり受け入れられたと言える。ただ心残りと言えば初恋の人くらい…



バシャッ

バシャバシャッ…



好きだった相手の事を思い出そうとしていてその時…近くで水の音がして私の思考回路はかき消される。




あ…またあの人だ…


紺色のラインが入っている膝下までの黒の水泳水着を着ていてスタート台に立つと、水泳キャップを頭に被りゴーグルをつける。

その人は私と同じくらいの歳の男子で、私がここのスポーツクラブのプールに通い始めてからほぼ毎日見かける人。長身で目立つ感じで遠くからだけどイケメンオーラがあるからか、私はその男子を覚えていた。