そう言いかけた時、そいつはピタッと足を止めた。相変わらず腕は掴んだまま。

そいつは振り返ってまた、さっきみたいにニコッと笑う。



「俺は黒坂 蓮」


そいつから腕を振りほどいて、またヘッドホンをかけ直すことはいつでもできた。
でも、いまの私にはそれができない。


「じゃ、コーヒー飲みいこ。柚希ちゃん」



なんで私の名前を知ってるんだろう。