「本当に大丈夫?」
「マルタイだって、気分転換は必要だからね。あまり部屋に閉じこもってると、病んじゃうよ」
もう病んでるかもしれませんけどね……。
気が進まない政略結婚に、テロリスト事件に、事実上の解雇通告。
全部、一度政略結婚を承諾してしまった自分のせいだとはわかっている。
だからこそ、落ち込んでしまうなあ……。
とぼとぼと悠の後をついていくと、ホテルの客室の間の狭い通路を通り、宿泊者専用の庭に出た。
「じゃあ、俺はここから周囲を見張ってる。東に高浜さんがいるから」
「了解」
悠は矢作さんに敬礼すると、私の手を引いて歩き出した。
って、どうして勝手に手をつないでるの? 彼氏でもないのに。
けれど、ふりほどくのもおかしい気がして、そのまま黙って歩いていく。
私の気分とは逆に、春から初夏になろうとしている空は青く、白い雲が浮かんでいた。
長袖のワンピースでは、少し汗ばんできそうなくらいの陽気だ。
悠に手を繋がれて、余計に暑く感じた。



