「霧子は優しいね」
そんなことない。私は、他人がどんな傷を負っていようが、それに気づかないフリをして生きてきた。
同情しないことがマナーだと言いながら、本当は深入りしたくなかっただけ。
こんなに胸が痛いのは、きっと相手があなただからだよ……。
「さあ、霧子も着替えて。朝食を食べたら、少し庭を散歩しに行こう」
私の頭をくしゃりとなでると、悠はクローゼットの方へと歩いていってしまった。
その背中を見ていると、なぜか彼を抱きしめたい衝動に駆られた。
ダメだよ、霧子。彼にだって、深入りしちゃダメ。
だって、一緒に暮らしている女性がいるかもしれない。彼の傷を癒してくれる人が……。
そう思う一方で、もっと彼のことを知りたいという気持ちが膨らんでいるのに気づく。
そんな思考を振り切るように、強く頭を振り、シャワーを浴びるためにバスルームに向かった。



