「随分大げさだな。公邸で淹れたコーヒーまで毒見が必要か?」
ひとつ年上の兄が、皮肉を込めた笑みを浮かべる。
彼は今、大学院で学生をしている。次の選挙に初出馬する予定らしい。
悠は返事をせず、後ろに戻った。
「いや、どこで何が混入するかわからないからな。それより霧子、今回の一連の事件のことだが、何か狙われるような心当たりはあるのか?」
父がたずねる。
あるわけない。横に首を振ると、篠田さんが手帳を開いたまま質問をしてきた。
「どんなことでもいいんです。些細なことで逆恨みや嫉妬をされるということもあります」
嫉妬と聞き、脳裏に奥田先生の顔がひらめいた。けれど、すぐにそんな考えは打ち消される。
「自分ではわかりません」
再度首を振ると、母が意地悪そうな薄い唇を曲げた。
「人のモノを盗った、なんてことはないの? あなたにはそういう血が流れているんだから」



