向かったのは、総理の執務の中心である総理大臣官邸に隣接する、総理公邸。
ここには、父の他に母と、兄がひとり住んでいる。
大きいけれど古い建物の玄関をくぐると、無駄に広い、絨毯が敷き詰められたホールが。その奥には中央に赤い敷物が敷かれた階段。
「あー、何回来ても、俺ここダメだわ」
悠が自分の両腕をさする。
「どうして?」
「知らないの?ここって幽霊がいるんだよ」
ああ……そういえばそんなオカルトな噂があるっていうのは聞いたことがある。
昔の政治事件で射殺された人がいるとか、自決した人がいるとか。
「そういうの、感じる方?」
「うん。感じるだけだけど。決して楽しくはないよね」
「ふうん。私、そういうの全然わからない。この世で一番怖いのは、幽霊よりも生きた人間よね」



