「泣くの?」
その声で、ぐっと唇を噛んだ。
まさか。こんなことで泣くもんか。
からかわれて、勝手に自虐的になって泣くなんて、かっこわるい。
「泣きません」
くるりと背中を向ける。
すると、小さなため息のような音が聞こえた。
「……バカだなあ。泣いたって、いいんだよ」
優しい声が聞こえたと思うと、ふわりと背中が温かくなった。
気づけば私は、後ろから悠に抱きしめられていた。
「つらいときは、泣いたっていいんだよ。ここは教室じゃないんだから」
ぎゅっと、私を抱く腕に力がこもる。
「つらくなんか……」
「つらくない人は、そんな顔しないよ。霧子、俺が結婚の話をするたび、泣きそうな顔をするんだもの。気づいてた?」
悠は私の肩に顔をうずめる。
首筋に息がかかって、くすぐったかった。
「幸せな人は、婚約パーティーの夜に『連れて逃げて』なんて言わない」
それはそうだ。
「それに、俺にはあの言葉が、『助けて』って言ってるように聞こえたんだ」
助けて……。
そうかもしれない。
私は、誰かに助けてほしいのかもしれない。



