ああ、そうだっけ。そんな話をしたっけ。でも、彼氏でもない人を呼び捨てするのって、なかなか難しい。
「コーヒー淹れてあげるから、霧子は着替えたら?」
ベッドから起き上がった自分の格好を見て、ハッとした。
昨夜は高浜さんが買ってきてくれたお弁当を食べて、お風呂に入り、いつもの毛玉だらけの部屋着で寝たんだっけ。
い、いいんだもん。べつに、SPに部屋着見られたって、平気だもん。
ブラと着替えをつかんで脱衣所に行くと、インターホンが鳴った。
こんな朝から、いったい誰?
「はいはーい。どうぞー」
大西さんがインターホンを押し、勝手に返事をしている声が聞こえた。
ちょっと、誰か知らないけど勝手に入れないでよ!
慌てて着替えを済ませリビングに戻ると、玄関から来訪者が顔をのぞかせた。
「おはようございます」
「た、高浜さん! おはようございます」
それは、爽やかに笑う高浜さんだった。もちろん、不精髭なんて生えていない。ネクタイも真っ直ぐ。
あまりにきちんとしているので、すっぴんで肩までの髪がボサボサの自分が恥ずかしくなる。