『霧子、私だ』
「お父さん」
『どうした? 風邪でもひいたのか?』
「ううん、大丈夫」
すぐそばにあったティッシュで顔をぬぐう。
「どうかしたの?」
『霧子、今から公邸に来てくれないか。渡したいものがあるんだ』
「渡したいもの?」
『ほら、あの……今日はお前の誕生日だろう?』
そう言われて、ハッとした。
カレンダーを見て、どうして自分で自分の誕生日を忘れていたんだろうと驚く。
「そうだったね。うん、わかった。用意できたら行くね」
『どうした? 今日はやけに素直じゃないか』
「うん、そんな気分なの」
誕生日プレゼントなら、もう届いているよ。
直接会って、お礼を言おう。
私を愛してくれて、ありがとうと。
電話を切り、化粧をして着替えてからタクシーを呼ぶ。
一時間後に公邸に着いたときは、すでに日が暮れて、明るい夏の夜空に小さな星が瞬いていた。



