「それなら婚約破棄して、その人と一緒になれば良かったじゃないか」
悠が問い詰める。
「八乙女家が総理亡きあとに君臨するには、藤沢家と一度は親戚になったという事実が必要だと思ったんだよ。だけど、結婚した直後に家の中で死んだりしたら、八乙女家の人間が疑われ、イメージが悪くなる。だが、婚約という形をとった後で、他人の手を借りて殺せば、世間は可哀想な花嫁と僕のために心を痛めるだろう。世間のイメージでは総理とのつながりを保ったまま。でも霧子とは離れることができる」
「なんて勝手な理屈だ」
悠はそう吐き捨てる。
さっき父を庇ってくれたのも、参列者に自分は疑わしい人間じゃないことを目撃させるためだったんだ。
そう思ってもなぜか、怒りは湧いてこない。ただ、篤志さんが気の毒になってきてしまった。
政治の世界でトップに立つのが、そんなに重要なこと?
力を持つのが、そんなに大事?
トップに立つってことは、いつ引きずり降ろされるかわからないということ。
そんな不確かなものに心を支配されている篤志さんは、可哀想だ。
もっと違う立場で生きていたなら、素直に愛する人と一緒になる道があったはずなのに。



