悠を守るために私ができることは、きっとこれしかない。
父を愛し、身を引いた母のように。
自己犠牲なんて今時流行らないし、こんな話のどこも美しくない。醜いだけ。
私が人生の中で見た一番美しいものは、一緒に逃げようと悠が差し出してくれた、あの手のひらだった。
悠と一緒に逃げた一週間だけは、私の中で穢れない思い出として、生涯残っていくことだろう。
私は安全で、でも絶望的に暗くて寒い、孤独な塔の中に戻る。
髪を垂らしてもそれを伝って登ってきてくれる王子様は、もういない。
「ああ、ああ……霧子、すまない。すまない……」
父は私の手をにぎって、深くうなだれた。
そんな姿を見ても、まぶたに浮かぶのは悠の笑顔ばかり。
まばたきをすると、涙がひとすじ頬を伝って、落ちた。



