「さて」
受話器を置いた桜さんは、きりっとした目で突然こちらを向いた。と、思ったら。
「さあ、行きましょう霧子さん。貴重品はこれだけ?」
声をひそめて、そんなことを言う。
しかも、ベッドの脇に置いてあった私の小さなショルダーバッグを持って。
「はい? ええ、貴重なのはそれだけだけど……」
たしかに、保険証とかキャッシュカードとかお財布は全部その中だけど。
行くって、どこへ?
キョトンとする私の手を引き、桜さんは強引に歩き出す。
静かに部屋のドアを開けると、そこに矢作さんはいなかった。
「矢作さんは?」
「ここに来たとき、不審者を見たと言ってあるの。今は高浜さんと一緒にホテルの見回りをしているはず」
そんなこと、一言も言っていなかったのに。
それどころか、矢作さんがいるから大丈夫とか言って。
「ついてきて」
悠と同じ顔でそんなことを言う桜さんは、ぐいぐいと私を引っ張っていく。
角で立ち止まって周りを見回しながら、エレベーターに乗り込んだ。



