「悠っ……」
彼がしているのは今やただの暴力であって、警護でもなんでもなかった。
「ダメだよっ、やめて!」
そんな悠見たくない。
恐ろしい、野生の獣に還っちゃダメ。
子供の頃の辛い経験は、きっと彼の五感を発達させただけじゃない。
生き残るために、腹黒く八方美人でいることや、自分を守るために相手を攻撃することを覚えさせたんだろう。
震える足をなんとか動かし、悠の元へ歩こうと試みる。そのとき。
悠を恐れていた四人のテロリストのうち二人が、こちらを向いた。
その瞬間金縛りにあったように、恐怖で体が動かなくなってしまった。
「渡せ……!」
二人ともマスクをしているから、どっちが言ったかはわからない。
渡せって、何を? もしかして、私の命のこと?
「ちっ!」
私に近づいてくる二人に気づき、悠が大きく舌打ちをする。
けれど、もう二人の壁に、悠は阻まれてしまった。



