ダメ──!
思いは声にならなかった。
代わりに夜空に響いたのは、悠の拳が、篤志さんの頬にめりこむ音だった。
「悠っ!」
「何するのよ!」
勢いよく倒れた篤志さんに、今カノさんが駆け寄る。
「子を子とも思わない親は、確かにいる」
悠は拳を握ったまま、言葉を搾りだす。
「総理だって、最低の人間なのかもしれない。それは俺にはわからない。だけど……どんな理由があろうと、霧子を傷つける者は、俺が許さない!」
篤志さんに向けられた声は、夜空に響き、同時に私の全身を揺さぶった。
初めて見る、怒りで燃えた瞳。牙を隠しているような、獰猛な唇。
ぐっと涙がこみあげる。
この世で私のために怒ってくれるのは……私の本当の味方は、あなただけだよ、悠。
「な、殴ったな……警察が、市民を」
殴られてこけた篤志さんは、ぶるぶると震えたまま、頬を押さえて座っている。
と思えば、子供のように人差し指を伸ばし、悠を思い切り指さして叫んだ。



