……十分後。
泣き顔を見られたくなくてこもっていたトイレの個室のドアの前から声がした。
「高浜さんすいません。あっっちは次の予定があるとかで、帰りました」
悠の声だ。篤志さんは帰ったんだ……。
ほっとすると同時、少しイラッとした。
何が『好き』よ。顔を出しもしないで。そういう気のきかないところが嫌いなの。ここですぐに追いかけてくれたら、少しは好感度が上がったって言うのに。
「おーい霧子、出ておいで」
悠ののん気な声に、さらにイラッとする。
「いやっ!」
「どうして」
「あんたなんか嫌い。大嫌い。突然敵側に寝返るなんて、信じられない!」
感情的に怒鳴りつけると、一瞬だけしんとした。そのあと、冷静な悠の声が聞こえてくる。
「……寝返ってないって。説明するから、出ておいで。お店の人にも迷惑だよ」
そりゃあそうだ……。
他にトイレに入りたい人が、入れなくなってしまうものね。
ゆっくりドアを開けると、少し呆れたように私を見下ろす悠がいた。



