「ごめんなさい、お腹が痛くて。悠、代わりに食べて」
「えっ? 大丈夫?」
悠が、立ち上がった私の腕に手を伸ばす。私はそれを、全力で跳ねのけた。
「お願い、放っておいて!」
そのまま誰の顔も見ず、障子を開けた。
ビックリした顔の高浜さんと目が合う。彼は逃げようとした私の腕を、しっかりとつかんで離さない。
そのうちに、部屋の中からは、『ちょっと情緒不安定みたいですね。マリッジブルーかな』とのん気な悠の声が聞こえてきた。
「霧子さん……」
「お、お手洗いに……連れていってください……」
そんな自分の声が、震えていることに気づいた。
頬をつうっと、冷たい滴がつたっていく。
「ええ、承知しました」
高浜さんはそう言うと、私の肩をいたわるように抱き、廊下をゆっくりと歩き出す。
まさか、こんな展開になるなんて。
ケンカになっても負けないと思っていたのに、下手に出られたら、どうしようもないじゃない。
救出に来てくれると思っていた王子さまは、塔を登るのが面倒臭くなって行ってしまったの? それとも、魔女の手下だったの?
私はまだ、塔の中。閉じ込められたまま。きっと、これからもずっと──。
マリッジブルーなんて言葉で片付けないで。
私は他に好きな人がいるの。
悠……あなたが、好きなの。



