でも、困った。もう、婚約を破棄してもらう理由が見つからない。
ここで『生理的に合わないから』なんて言っても、きっと男性には理解してもらえないだろう。
嘘でもいい、こう、説得力のある理由は……。
頭の中でぐるぐると考える。
性病を持っているとか、実は借金があってギャンブル依存症とか。二次元の男の子にしか興味がないとか……。
あっ、そうだ。見つけた。きっと、相手がひるむであろう理由を。
「ご、ごめんなさい。私、実は他に好きな人がいるんです」
「はっ?」
「どうしても、忘れられないんです。ええ。きっと、これからも」
そう言いながら、何故か背後にいる悠のことが気になっていた。
今、いったいどんな顔をしているんだろう。
「それは……どこの誰だ?」
とうとう篤志さんの眉間に、シワが寄りだした。
「迷惑をかけるといけないので、名前は出せません。婚約前に知り合った人です」
「ふむ」
嘘だよ、嘘だからね。
悠、お願いだからあなたは信じないで……。



