「そうやって外すんですか」
さすが産まれた時からの金持ち。何でも知ってるなあ。
「ああ……ところで霧子」
名前を呼ばれ、口元まで運んでいたお吸い物を、ゆっくり座卓に置く。
「この前言っていた、僕との婚約を白紙に戻したいというのは本気だったのか?」
やっと本題がきた。
お椀から手を離し、膝の上に置く。
その手の平はすでに汗ばんでいた。
「はい。ごめんなさい。勝手なことを言っているのは、わかっています」
座卓に額をうちつけそうなくらい、頭を下げる。
「理由は……それも、あの時言っていたよな。僕のことを、愛していないと」
頭を下げていたので篤志さんの顔は見えなかったけど、その声が存外に寂しそうで、少し胸が痛む。
「頭を上げてくれ。君をいじめたいわけじゃない」
このままでは話が進まないか……。
おそるおそる顔を上げると、いつもは短気ですぐに怒って怒鳴り散らす篤志さんが、意外に冷静な顔をしていた。いや、懸命に冷静を装っているだけなのかもしれないけど。



