着信の相手は篤志さん。勢いで指をスライドしながらその名前を認め、しまったと思ったけど遅かった。
「も、もしもし……」
跳ねあがった心臓が、鎖骨を裏側から押してきそう。
『霧子か。今大丈夫か』
「ええ」
実は、全然大丈夫じゃなかったんだけど……。
『また襲撃にあったそうだな。心配していた』
そのわりには、連絡してくるの遅かったですね。
『あれから、総理から何か連絡はあったか?』
あれから……公邸で話し合いをしてからって意味?
父と会ったのはあれが最後で、その後は『無事か』『元気か』というメールはくれるけれど、八乙女家との政略結婚についての具体的な話は一切出ていない。
総理としての職務も忙しいだろうし、気まずい話題だ。とんとんと進まなくて当然だろう。
「特には……」
そう答えると、受話器の向こうからため息が聞こえた。



