「と、ところで、朝日奈さんこそ彼女とかいないんですか?」

武田君が話を朝日奈君に振った。
一瞬、朝日奈君のメガネの奥の目に不思議な表情が混じった気がした。
しかし、すぐに

「いやぁ、ここ3年ずっとひとりです」

と軽く笑いながら応えていた。

「だから、おふたりが羨ましいですよ」

と武田君と香奈に言った。

「ねぇねぇ、朝日奈さん、別れちゃった彼女ってどんなコだったの?」

香奈は興味本位でニヤリとしながら彼に尋ねた。
武田君はなに失礼なこと訊いてるの、と香奈に注意した。
当の朝日奈君は困ったような顔をしていた。
そして、

「いいコでしたよ。僕にはもったいないくらいに。明るくて。美人とは言えなかったとしても、ちっちゃくてかわいいコでしたよ」

と、遠くを見つめながら語った。
なんか、目が悲しみを含んでるように見える。

「それで、なんで別れちゃったの?」

香奈がズケズケと更にきいた。
朝日奈君は表情を曇らせなにか言いよどんでいる様子だった。
それに気づいて、武田君が香奈をたしなめて、朝日奈君に謝った。
朝日奈君は力なく笑いながら

「こういう席で言うにはちょっと場違いな話になっちゃうんで、その辺は勘弁してください。」

と言った。
そして

「ところで、おふたりは新婚旅行どちらへ行かれるんですか?」

と武田君達に尋ねた。

「明日から出発でね、タヒチ行くの」

香奈が弾むような声で答えた。

「朝日奈さんにもお土産買ってくるね。里沙のとこにまとめて送るから後でもらってね」

「タヒチかぁ、いいところみたいですね。お土産なんて僕は結構ですから、そのぶんおふたりで楽しんできてください」

朝日奈君は香奈の言葉に笑顔でこたえていた。