「好きだと思う」
これまた明確ではない答えだ。
柏木くんの中では、はっきりと定まっている感情は存在しているのだろうか。
「柏木くん、聞いてもいい?」
「何」
「柏木くんて、何が好きなの?」
「……」
「好きなものとか、興味のあることとか、なんだろう、えっと」
「わからない」
「わからないって、どういうこと?」
上を見ていた柏木くんの視線が、ゆっくりと下りてくる。
茶色が掛かった黒い瞳の奥には何も映していないように見えるけれど、実際に何が見えているのかは当人にしかわかり得ないことだ。
「自分が何を好きかとか、どうでもいい」
「…ごめん、柏木くんの言っていることがよく分からない」
「いいよ、俺もよく分からないから」

