「お茶の温度は60度、前も言っただろうが」

 備え付けのパイプ椅子に腰掛けた俺は、フーっと溜め息をつく。

 赤野はすっかり悄気かえり、もじもじと指を弄ぶ。

「うう…ポットのコンセントが抜けてて…」

「ま、お陰でヤケドはしないで済んだ訳だから、半々だな」

「ですよね~。私もそうじゃないかと…」

 パッと顔を上げる。

「黙れ。これがお客様だったら、どうする気だ。なあ、赤野?」

 頭に軽く手を乗せ、強めに撫でる。

「うう…ハイ、気を付けます。スミマセン」

「まあいい、次からは何もない所で転ばないように」

 説教は10分で止める主義である。

 俺は、半分濡れたスーツのジャケットを脱いで、彼女に放り投げ、5000円札を渡した。

「これ、クリーニングに出しといて…ん?どうした?」

 じろじろ見て。

「あ、いえ。脱ぎっぷりもセクシーだなって…。いやぁ、お茶に濡れても相変わらずのキラキラオーラですね~」

 赤野は恥ずかしげに頭を掻いた。

「ば、バカ。何を言い出すんだ」

 …嬉しいじゃないか。