リビングのソファを彼女に勧めると、ミニテーブルの向かいに座布団を置く。

 お茶でも出そうとキッチンに向かいかけた俺を彼女が慌てて引き留めた。

「あああ、寝ててください。私やりますから!
 カチョーってば顔、真っ赤ですよ?」

「いいよ、気にするな。
 大した風邪じゃないんだ…ゲホッ。

 な、何をするっ!」

「嘘ばっかり。
 あ~…やっぱ凄い熱」

 立ち上がった赤野はニュッと手を伸ばし、俺の額に掌を充てた。

 熱が上がったのは、オマエのせいだっ。

「分かった。
 じゃあ、チョッとだけ……すまん」

 他人に、ましてや部下に弱った姿を見せたくないが…
 とはいえ、思った以上に身体がツラい。
 躊躇いながらも俺は、ソファに身を横たえた。

 すると、替わりに座蒲団にチョコンと座った彼女が、嬉しそうに荷物を拡げ始める。

「これと、それからこれね。出来上がってたの、持ってきました」

 赤野はクリーニング屋から戻ってきたスーツと、俺が店に忘れて帰ったコートをテーブルに置いた。

「…それから、これ。こないだのワンホールのお返しです」

「全部食ったのか。
 ……一人で?」
「はい!美味しかったです」

 スゲエな。
 呆れつつも、彼女が一人だったことに気分を良くした俺は、少し声を弾ませた。

「そ、そっか。
 しかしコレ、多すぎやしないか?」

 どこに隠し持っていたんだろう。

 さっきから彼女が、テーブルに次々と並べている栄養ドリンクと薬に、だんだんと顔がひきつってきた。

「これで最後です。
あの、課長…」

 と、最後の栄養ドリンクを並べ終えた彼女が、突然に顔を曇らせた。

「イヤ無理だって………赤野?」
 

「あの日、課長が仰いましたよね、『鈍さは罪だ』って」

「ああ」

 …言ったっけ?

「…課長…私、気付いてしまったんです」

 …な、まさか、ここにきて愛の告白か⁉

 いつかの夢は正夢か⁉