「…いえ、全く。…それよりも社長」

 俺は、社長の耳許まで近づき、密やかに問いかける。

(デートのダブルブッキングなんかするからですよ)

(いやあ、なんと、鉢合わせしてしまってね…気を付けてたんだが…)

(想像つくでしょ!フツー)

「で、だ。」

 急に快活な調子に戻り、俺に“808”号室の鍵を渡した。

「そこに凶暴化した松嶋くんがいる。…頼むよ。私は、スゥイートルームの原口くんの所へ行くから…じゃあな!」

 こと女性に関して、決して年を感じさせない社長は、意味不明の笑いを残し、颯爽とエレベーターに消えていった。


 

 ……今日はクリスマス・イブ。
 
 恋人逹の甘い夜。

 
「キーっ、悔し~っ!何でアイツがスィートで、私がツインなのよ~っ!チョッと聞いてる?大神くんっ!」

「松嶋さん…苦しい…」

 
 俺は最高級ホテルの一室で、社内1の美女と二人きり。

「原口さんはホラ…10日前に始まったばっかだから、ね?本命は貴女ですって…」

「…ホント?」

「ホントホント」


 一切手を触れず、ひたすら宥めすかすのが、この俺様に課せられた……主命だ。