ちっ、こんな時に……

 忌々しく、俺は胸ポケットから携帯電話を取り出し、メールの着信画面を確認する。

 『緊急事態。Oホテル。すぐきてネ♪…社長』

「……」

 
 断腸の思いで席を立つ。

「すまん、赤野。…訳あってこれから社用に戻らねばならん。支払いは余分に済ませておくから、充分楽しんだら、悪いが隣で寝てるバカをタクシーに突っ込んでやってくれたまえ」

「ウワー、忙しいれすね~、カチョーは」

 目を丸くする赤野。

「…最後に、一言だけ」

「は、はいっ」  

「社会人2年目の女として」

 鋭く目線を流すと、条件反射で赤野はぴしっと背筋を伸ばす。


「その鈍さは……罪だ」

「‼」

 上気した頬に、そっと口付けた。

「じゃあ、すまん」

 支払いを済ませたレジで、ふと思い出し、席に戻る。

「そうだ、これ。オマエなら、完食出来るだろう」

 白い真四角の箱を置き、俺は脱兎の如く駆け出した。

 惚けたままに呟く彼女を残して。


「オオカミさん…。20号は、一人じゃムリですよ…」