「よっ、大神カチョー、ご苦労さんですっ」

「……。何故貴様が居る。熊野」

(ダマレ大神、抜け駆けは許さん)

 俺達の密やかな応酬を気にする風もなく、赤野が俺のグラスにワインを注ぐ。

 彼女は酒が入るといつも上機嫌である。

 そこがまた…いや、やめておこう。

「いえね、道が分からなくて困ってたら、熊野センパイに偶然会って…あれ、大神課長?何か怒ってます?」

「いや…怒って…ない」

 ニヤリと笑んで、勝ち誇る熊野。

 “偶然”じゃねーだろ、ストーカーが。

 俺の心の内を知ってか知らずか、朗らかに杯を掲げる赤野。


「ハイ。では3人で仕切り直して…」

「「カンパ~~イ」」

 チリーン。

 クリスタルのグラスが澄んだ音を奏でた。


 何でこうなるんだ。