『黒澤自体、かなり大きな企業ですが、飛天はホテル業界ではトップです。私の一声で、黒澤を潰すのは容易い』

「…私にどうしろと言うんですか?」

『雪さんが、私との約束をまもってくださるのなら、波風をたてるつもりはありません。…お分かりになりますね?』

「…」

『…一週間、お時間を差し上げましょう。じっくり考えてください』

そして、電話は切れた。

雪は頭を抱えた。…この事を琉偉に相談しなければ。

頭ではわかっている。…朝、課長にも言われた。一人で抱え込むなと。

でも…

それから数時間後。二人が社に戻ってきた。

「…おかえりなさいませ」

「…白井さん」

雪の様子が違うことに、琉偉は直ぐに気づいた。

琉偉の呼び掛けに、雪は笑顔を向ける。

「…ちょっと社長室へ」

「…はい」

課長は終始二人を見守るだけにした。

…。

「…社長」

「…何事も、一人で抱え込むなと、マーにも言われたと思うんだけどな」

「…何の事でしょうか?」

平静を装って雪は答える。

「…何もないなら、どうして右手が微かに震えてるのかな?」

琉偉の言葉に、雪はハッとした。

無意識に緊張で手が震えていた。

少し溜め息をついた琉偉は、雪の目の前に来ると、突然雪を抱き締めた。

当然、雪は驚いた。