…電話が終わってもしばらくその場から動けなかった。

ガチャ…そこへ義人が来て、ドアを開けた。まさか、もう雪が来ているとは思わず、目を見開く。

「…雪」
「…今の話、本当ですか?」

「…」

雪の問いかけに義人は答えない。ただバツが悪そうに目を泳がせる。

「最初から、仕事の為に私に近づいてきたんですね。…私の気持ちを弄んだ。最低です」

「…雪、俺は」

「…鮫島さん、もう二度と、私の前に現れないでください」

「…雪‼︎」

雪は会社を飛び出した。…琉偉は、雪の為に、義人と別れさせたのだ。…あの時、社長室で見た、SKファンドの報告書も、義人が良からぬ行動を起こしている事に気付いたから…

それなのに、雪は、自分の事で頭が一杯で、琉偉に酷い事を言ってしまった。

琉偉になんと、謝罪すればいいんだろうか?

…気がつけば、琉偉のマンションの部屋のドアの前。会って謝罪したいのに、言葉が見つからず、途方に暮れていた。

その時、雪の携帯が鳴る。…琉偉からだ。どうしようかと悩んだが、それに出た。
「…はい」
『…白井さん、今どこ?』

「…ちょっと言いにくいんですけど」

その言葉にピンときたのか、間も無くして玄関のドアが開く。

「…白井さん、なんで」

言い終わらないうちに、琉偉は雪を抱き寄せた。

「…ごめ、なさ…」
「…白井さん?」

「…ゴメンな、さ…」

琉偉の腕の中で、泣きながら、何度も何度も謝り続けた。